「鎌について」
まひるの中の月の光
横顔の眉のやさしさを象どって
いつも私につき従ってくるもの
この氷のとげ。
叢の中にさびしい音をしのばせ
お前は私の鉄の爪。
かやつり草や水のそばの柔かい森で
青いなつかしい禾本科の放つ匂い
かえるまたや、沢とらのおや、 pigmy’s curtain こまつなぎ
この時不意に赤縞の蛇は
すみやかに水を渡って逃れ去る。
やすらう私の手から不意にお前がすべり落ちて
川底の金砂に突き立った時に――
いつも磨ぎすまして
物憂い私の思念を切り割いていくもの、
山の木々の枝をなぎ落し
私を行動に拍車するもの。
その曲線には渦がある。
その焼きの匂いが
私を具体的にすすめる。
お前を持たぬうちは私はただ純潔であった。
お前が私の掌へ来てから私はすべてを速く刈る。
お前は最も原始的だから私の心に最も近い。
私はお前のかげにいつも我身をかくす。
鎌よ
お前は地球と私の心を率直に剃り放つ。
お前、とげが薔薇を守るように我に在れ。
永瀬清子 永瀬清子詩集
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